黒猫の見る夢 if 第19話


「・・・つまり、シャルルは猫に姿を変えたことで、ルルーシュが自ら食を絶ち、日に日に衰弱し苦しんでいる姿を見るに堪えられず、どうすれば助けられるか、このままでは苦しみながら死んでしまうと・・・つまりルルーシュを心配しすぎてやつれたと?」

そしてどんな手を打っても改善されないため、最終手段として、親友だったと報告のあった枢木のもとに預けたのだという。
あまりの内容にC.C.以外全員口を開いて茫然としていた。ルルーシュは仮面をかぶってしまって表情はわからないが、間違いなく同じような顔をしているだろう。
C.C.の立ち直りが早かったのは、シャルルがルルーシュとナナリーを愛している事を知っているから。茫然とする皆の様子に、アーニャはどうしてと首をかしげた。
まあそうだろうな、アーニャの中にいたマリアンヌは、わが子を愛していると口にしていた側だから、アーニャからすればシャルル皇帝がルルーシュの苦しむ姿を見て、つらい思いをするのは当然のことなのだろう。
だが、それはマリアンヌとシャルル限定の感情だ。

「いいか、アーニャ。シャルルはな、母を無くした息子が、母の葬儀にも顔を出さなかった父親に、せめてナナリーの見舞いに行って欲しいと頼んだ時に、お前は生きながらに死んでいる、と言うような男だぞ?そして、ようやく退院し、心に深い傷を負った幼い娘と共に、これから戦争をする国のトップの家に侍従も、碌な護衛すらも付けず・・・ああ、皇族であるルルーシュが日本人に殴られていても、下賤な血を引いた皇族に価値はないから、死ななければ問題はないと、ただ見ているだけのSPはいたが、その程度の人間しか付けなかった男が、我が子を愛していたなんて誰も思わないだろう?あいつはそれが最善手だと言っていたが、どう考えても悪手だった。ルルーシュの頭がなければ、8歳のナナリーは枢木ゲンブの後妻にされ、ルルーシュは殺されていただろうし、スザクがいなければナナリーは殺されていた。そして私がいなければ二人とも殺されていた。シャルルが二人を粗雑に扱ったことで、今のうちに庶民の血をひく皇族を始末しようと、どれだけの者が動いたと思っている。私が文句を言っても、それを止めるでもなく、首相の家なのだから警備は万全だろう、何も問題はないとか言っていたからなあいつは。だが、その警備が万全なはずの家の中で、ひそかに裏取引をしていた当の首相が暗殺されて、あいつは慌てて日本を攻めたんだ。アッシュフォードがひそかに日本に人を送っていたことを知っていたから、ルルーシュとナナリーはアッシュフォードに任せればいいと言いながらな。アッシュフォードの爵位を剥奪し、没落させておきながら、マリアンヌもアッシュフォードなら大丈夫ねとか言ってるんだぞ。私も二人がルルーシュとナナリーを愛しているとそう口にしていたから信じていたが、こうやって考えると、よく信じたものだと、当時の私を殴りたい気分だ」

そこまで一気に話たC.C.をじっと見ていたアーニャは、眉根を寄せた。
マリアンヌが絡んだ事はアーニャも知っているだろうが、マリアンヌがいないときの会話や、彼女が知り得なかった情報、そしてC.C.とのCの世界を介した会話まではアーニャも知らない。
顔を逸らしたルルーシュとスザクと、うつむいたジェレミアの反応で、C.C.の話が真実だと、アーニャは理解した。

「違う。それは愛情じゃない。ルルーシュとナナリーを一番苦しめたのは、皇帝とマリアンヌ様」
「そういうことだ。あの二人が、原因だ」
「でも、皇帝もマリアンヌ様も気づいてない。ルルーシュ様もナナリー様も、真実を知れば自分たちを許し、自分たちを愛してくれると思っている。でも、ありえない」
「俺たちが、許すと?」
「そう。自分たちを守るために、心を鬼にして遠くに置いたのだと。冷たくしたのも守るためなのだと。それを知れば二人は自分たちに感謝するって」
「ふざけるな!!誰が感謝など!!」

仮面で表情は見えないが、激昂したルルーシュに、アーニャは眉を寄せて頷いた。

「感謝なんか、するはずない。ルルーシュ様怒っていい。恨んでいい。許しちゃダメ」 「・・・ついでだルルーシュ、さらに腹の立つ話をしてやろう。マリアンヌの話だ」

C.C.はどうせいつか話すことになるのだから、ショックを受けるなら1回で済ませたほうがいいだろうと、ルルーシュに視線を向け話し始めた。

「ルルーシュとナナリーが遺伝子操作を受けている、という話には続きがある。私がまだ響団の響主だったころ、研究員に相談された話だ。マリアンヌが、ルルーシュとナナリーの間に子供ができれば、より高い数値を出せるんじゃないかと言っていたそうだ。血が濃くなることで、奇形が生まれる可能性があるし、何せ兄妹だからな、それは出来ないと研究員は拒否したが、奇形で生まれてもラグナレクの接続ができればそれでいいと言ったそうだ。そして、その後ナナリーが無理なら、ルルーシュとナナリーに次ぐ数値を出したユーフェミアとの間に子供を、と言い始めたそうだ。マリアンヌが積極的にリ家と接触を持ち、ユーフェミアと交流を望んだのはそういう理由だ。まあ、コーネリアにその話を持ちかけたときに、兄妹だから無理だと否定されたようだが、もしマリアンヌが健在で、ルルーシュとナナリーがまだ皇室にいたら、間違いなくナナリーとユーフェミアにルルーシュの子を産ませようとしただろうな」
「な!?」

その内容に、ルルーシュは声をあげて驚いた。

「ちょ、なにそれ!?」

まさかルルーシュのシスコンって母親の刷り込み!?

「まって、もーなんなのそれ!?ルルーシュのお母さん危なすぎじゃない!?」

うちのお母さん、寂しさに負けてリフレインに手を出したけど、ずっとまともだわ!

「マリアンヌさまがそのような事を・・・!?」
「嘘、ありえない」

全員が驚きの声をあげたのをC.C.は真剣な表情で聞き「真実だ」と口にした。

「まあ、ルルーシュの性格が今と同じなら、妹と肉体関係を持つなんてありえないだろう?だから仮定の話だが、マリアンヌがもし生きていたら、検査という名目でルルーシュから精子を、ナナリーから卵子を取り出し受精させ、マリアンヌがその子供を産んだだろう」
「・・・マリアンヌ様がお二人の子を?」

皆が絶句するなか、ジェレミアは蒼い顔でそう尋ねた。
その問いにC.C.は頷いた。

「元々マリアンヌが皇妃となったのは、ラグナレクに賛同したため。そして私のコードを、より強い力で受け継ぐ子を自ら産むため。だから産むなら遺伝子操作をした子供だけ。それ以外は間違っても孕むつもりはなかったから、皇帝との夫婦の営みは最初から無かったということだ」

宿ったのが確実に遺伝子操作された子だと確信するためにも、疑わしい行為など一切しなかった。

「わかるかルルーシュ。処女懐胎だ。そして自分の名前にはマリアが含まれている。当時のマリアンヌはそこに拘っていたよ。私は神の子を産むのだと、そして既存の神を殺し、我が子が新たな神となるのだとな。まあ、ナナリーが生まれた後の事は知らないが、もし皇帝と関係を持っていたとしても、神の子であるお前たちの子だから、処女懐胎には拘らず、間違いなく自分で産んでいただろう。神の母となるために」

ざわりと全身に鳥肌が立つのを感じ、ルルーシュは思わず自分の腕をさすった。見ればカレンとジェレミア、アーニャも同じようなしぐさをしている。

「うわぁ、最低だねマリアンヌ様。暗殺されて良かった。犯人に心の底から感謝するよ」

唯一、平然としたそぶりで話を聞いていたスザクがそういった。
それももちろん、空気を読まず明るい声と、にっこりと笑顔付きで。

「スザク、お前な・・・」

さすがに今の内容を聞いた後にその反応はどうなんだと、ルルーシュは今だ治まらない鳥肌をさすりながらそう聞いた。自身の事だから、やはりこの中で一番衝撃と嫌悪を抱いているのはルルーシュのようだった。

「え?どうしたのルルーシュ、寒いの?おいで、温めてあげるよ」

にっこりと両手を広げ抱きつこうとするその男に、カレンが反射的に蹴りを入れた。
それはあっさりかわされたが、ルルーシュの前へカレンが立つ時間は十分稼げた。
カレンには遅れたが、C.C.もさっさとルルーシュの横の定位置に戻り、スザクをこれ以上近寄らせないよう牽制した。

「ひどいなカレン」

せっかくルルーシュを抱きしめようとしたのに邪魔するなんて。

「馬鹿じゃないのあんた!今の話聞いてたでしょ?なんでそんな能天気に笑ってるのよ!」
「なんでって、なんで?」

スザクはどうして怒っているのと、キョトンとした顔で首を傾げながら聞いてきた。
結果的にルルーシュが守られたから喜ぶべきことなのに。

「あんたねえ!」

いくら童顔でも、いい年した男がそんな仕草しても可愛くないわよ!!

「スザク、馬鹿」

さすがのアーニャも眉根を寄せてルルーシュの前に立った。

「枢木卿、これ以上ルルーシュ様のお傍に近寄る事は、このジェレミアゴットバルトが許さん」

ジェレミアまで加わると、さすがのスザクもお手上げだった。
なんかルルーシュ以外のみんなにはバレちゃって警戒されてるけど、障害が大きいほど燃えるよね。
時間はまだあるから、じっくり落とせばいいと、楽観的にスザクは考えていたのだが。

「温めてあげる」

と、アーニャがルルーシュに抱きついた瞬間、スザクは目を細めて動き出した。

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